あの頃見ていたもの
January 18, 2023「 駅で風船貰っちゃったから、今日は学校サボることにしたっ!」
あらかじめ用意された結論に、取って付けたような理由
理屈などお構いなしに2つを結びつけるそれを
“ 若さ ”と呼ぶのかもしれないし
或いは “ 生きること ” そのものなのかもしれない
頬と鼻頭をほの赤く染めて現れた君は
12月の澄んだ光を小さく胸に吸い込んで
白い吐息に変えた
駅へと向かい足早に坂道を下る人々の間を
赤い風船片手に逆走する
1日限定の “ 不良 ”
東京の空はいつも狭いのに
登り坂の向こうに見上げた真冬の空が何処までも高くて
ふいに頭をかすめた
この世界の広さ
肌を刺すような冷たい空気の中で
冬の柔らかな光が君の血をあたためて覚えた
生きる歓び
あたらしい世界
地表に降りた霜柱を
嬉々として踏み鳴らしたその足は
はじめて踏み入れる世界の中を
つまずいたり
転んだり
立ち止まったりしながら
前に進む
そうやって歩き続けているうちに
かつてあたらしかったものは
いつしかその煌めきを失って
居酒屋でグラスを片手に頬を赤らめた君は
この社会の不条理を嘆いたり
将来を憂いたり
「 あの頃 」に思いを馳せたりなんかもして
あれから幾たびの冬を繰り返して
街は変わった
人も変わった
ただ変わってゆくということだけが
変わらない
だけど
変わることは消えることではなくて
君が生きた時間は
確かに君の中に息づいている
君は覚えているだろうか
冬の光に優しく抱かれ
揺られて
ほつれて
流されながら
自由に空を泳いだ
いのちの 赤い輝きを
( teens 「 本間愛波 01 」より )