初雪の日
January 13, 2019「雪だ!」
窓の向こう側にチラチラと舞い始めた初雪に真っ先に気付いた少年が歓喜の声を上げると、クラス中の視線は一斉に黒板から窓の外へと向けられ、教室が歓声に包まれた。小学校低学年の時の話。
しかし初雪は大抵積もりはしない。本格的な積雪となるとそこから更に1ヶ月程度待たなくてはならなかった。程なく溶けてしまった初雪はそれでも本格的な冬の到来を告げるには十分で、冷え込みが一層強まった朝一番の通学路には所々に霜柱が張った。
情緒や慈愛と言う言葉の対極に位置する小学生男子にとって、霜を踏み抜いた時に足裏から伝わる脆く儚い感触とザクザクバリバリと言う歯切れの良い音は最高のエンターテインメントで、毎朝誰にも踏まれていない霜を見つけては嬉々として踏み抜きながら通学路を蛇行し歩いたものだった。
夜の天気予報を確認し、翌朝の積雪を心待ちにするのは北国の子供の日課だ。「明日雪積もるかなー?」と言うやりとりはこの時期一体どれだけの家庭で飛び交うのだろうか。
そんな日々を繰り返しているうちにその日は確実にやって来る。目を覚まして窓の外を見ると見慣れた風景が銀世界へと変わっていた。
「雪が積もってる!」
…未だに雪は好きだが、その時味わった感動は今はもう味わうことは出来ない。新千歳空港に近づく飛行機の窓から見下ろす雪景色にも心の針が微かに振れる位だ。
冬の北海道で絵に描いたような雪遊びに勤しむ韓国人や中国人のカップルを目にして、無性に、あの雪に対する胸の高鳴りをもう一度味わってみたいと思った。
けれどもオトナになった僕には、それは恐らく今で言う所のスクラッチで5万円が当たった喜びに匹敵する位かなぁと想像するのが精一杯だった。